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2008/12/21


米国:最低限必要なこと ― 不況での高級品マーケティング

THE WALL STREET JOURNAL

高級品業界に同情する。今年のホリデーシーズン、高級業界には、気力を挫くようなマーケティングの壁が立ちはだかっている。すなわち、景気後退で不安に駆られている消費者に、何千ドルもの財布や、宝石を買ってもらわなければならない。

およそ10年間、高級品メーカーは、顧客基盤を必ずしも一部の富裕層に限ることなく広げる一方、顧客の購買意欲を維持するような高級イメージを壊すことなく、微妙なバランスを取りながらマーケティングをおこなってきた。ティファニー(Tiffany & Co.)、ルイヴィトン(Louis Vuitton)、グッチ(Gucci)、および、シャネル(Chanel)のようなブランドは、数ある中流層向け商品より高級なポジションを保ちながら、それらブランドが高級ではあるが、手に届くものとしてプロモーションをおこなってきた。記者のダナ・トーマスが、2007年に出版した本、「デラックス:ラグジュアリーはどのようにその輝きを失ったか(Deluxe: How Luxury Lost Its Luster)」によれば、シャネル(Chanel)は、自身を、パリジャンの優雅さの権化と位置づけている一方、1990年代を通しての売上No.1店舗は、ハワイ・ワイキキのショッピングモールの店舗であった。

高級時計メーカーのパティック・フィリップ(Patek Philippe)は、「あなたは本当は、パティックフィリップを決して所有していない。あなたは単に、次世代のために手入れをしているだけだ。」という宣伝文句を採用した。この文句は、ステータスよりも、家族意識を引き起こすことを意図していた ― しかし、たとえば、一緒にリスを掴まえようとしているというよりも、ヨットを楽しんでいる親子を連想させるイメージ。

中でも、もっとも型破りで、野心むき出しのマーケティングの例は、ルイヴィトンの「コア・バリュー(Core Values)」キャンペーンだろう。テレビや映画館で流された、あるコマーシャルでは、映像美とフォーチュン・クッキーの考え方が組み合わせられ、小売プロモーションの考え方を新たなレベルに引き上げた。感傷的なギター演奏による音楽が流れ、人々が瞑想にふけるイメージが、早いペースで現れる ― 男性が一人、湖畔で、太極拳(tai-chi)を演じる ― 無邪気な目をしたモデルが、憧れの目でカメラを見つめる ― 男性が一人、砂漠の真ん中にたたずみ、彼のリネンのシャツがそよ風になびいている。それぞれの場面には、俳句のようなメッセージが現れる ― 「旅行とは何だろう?...それはプロセス...発見...旅がまざまざと我々を導く...我々自身と共に。」コマーシャルが進み、ニューエイジのグル、エックハルト・トール(Eckhart Tolle)が、LVの飾りのついたトートバッグを持って歩く。そして、最後に、視聴者には、象徴的なルイヴィトンロゴの一瞬の輝きと、「人生はあなたをどこに導くだろうか?(Where will life take you?)」との問いかけが残される。

今年のクリスマスシーズン、この広告で、多くの顧客が、ルイヴィトンの店舗に足を運ぶことになるだろう。高級ブランドが考えている、わずかな妬みを掻き立てるという戦術は、今の時勢、見苦しく見えるかもしれない。しかし、有名人の推薦や、可愛いPRキャラクターなどの、従来のアメリカ的販売戦略は、ルイヴィトンのような会社には効果がない。高額なハンドバッグや高級宝石を売らなければいけない、高級ブランドがすべきことは一体なんだろう?

ある高級ブランドは、もっとも所得の多い富裕層に焦点を絞り、ビジネスを行っていくという、直接的なアプローチを採用した。このブランドの広告メッセージは明確だ ― もし、商品の価格を聞く必要があるのであれば、あなたにはきっと買うことはできないだろう。ある最近のルイヴィトンのジュエリー(ルイヴィトンは宝石にも手を広げている)の印刷広告では、大きいサイズの宝石が特徴的だった。「赤・ピンク・ブルーのスピネルとダイヤモンドの18Kゴールドを記憶して(Ring in)ください」という、直接的なメッセージであったが、価格はどこにも書かれていなかった。

カルティエでは、「マイペースで行こう(Take Your Time)」と題打った広告で、9,950ドルのパシャ・シータイマー・クロノグラフ(Pasha Seatimer Chronograph)の価格を前面にだしている。そして、新聞を開けば、シャネルが果敢にも、2,150ドルの「エッセンシャル(Essential)」ラム革ポシェットを売ろうとしているのを見ることができる。

一方、他の高級ブランドは、経済不況を非常に慎重に歩んでいる。まるで、誰かがばつの悪い話をしたときに、優雅に話題を変えるホステスのように。今週始め、ティファニーが、ニューヨークタイムズ(New York Times)に、最低でも4,000ドルはするダイヤモンド・リングの見開きカラー広告を出した。「夢はまだ現実にできる(Dreams Can Still Come True)」と、甘く、楽観的なコピーが書かれていた。「彼女の夢の鐘の音を鳴らそう(彼女に指輪を送ろう)。想像できる中でのベストはここに。(Give her the ring of her dreams. For less than you imagine, the best there is.)」

デビアス・ダイアモンドの戦略は、もっとも創造的だ。高価なダイアモンドは、贅沢ではなく、むしろ、思慮深い投資である ― 実際、株式市場に投資をするよりはましだ、というのが最近の広告のメッセージである。「ダイアモンドは永遠の輝き(A Diamond Is Forever)」とのキャッチフレーズで、見開き広告が出された:「今日も明日も相変わらず。こんな時代には、束の間のものよりも、永続するものが懸命です。(Here Today. Here Tomorrow. In times like these, it's perhaps wise to reflect on the things that last rather than the things that come and go.)」「ダイアモンドは、」デビアスは言う、「大陸ができてから市場の動乱まで、全ての歴史を経験してきた。世代を超えて、1000年が過ぎても、ダイヤモンドはまだここにあるでしょう。まさしく愛のように。」401(K)とは違う。

デビアスの他の広告では、小売店でダイアモンドを大量買いしそうな男性に、倹約を促している。「減らすべきものがある」と始まる。「我々の生活はもので溢れている。ものに圧倒されているが、大事にはしていない...多分、これからは違います。多分、今こそが、本当に大事なことを見直す機会です。特に、これまで彼女に買ったものが一晩で消えるとしたら、彼女は一体何を失うでしょうか?」広告は、ダイアモンド・イヤリングを映し、「ダイアモンドは永遠の輝き」とのメッセージが現れる。デビアスは、高級品買いは薄っぺらい美徳であると仄めかすとともに、うまい具合に知的に皮肉っている:そのまま、彼女へのクリスマスプレゼントに、カシミアのセーターを送ってください、と広告は受け取れる。もし彼女がそれを着なければ、結局、あなたのプレゼントの意味はないでしょう。

現状を受け入れて、最終収益に嘆いている、高級ブランドにも、いくらかの尊敬が与えられるべきだ。彼らの広告は、まるで葬式の雰囲気が漂っている。アパレルデザイナーのトム・フォードが出した、最近のニューヨーク店の広告は、お悔やみカードに近いものだった ― 黒い背景に白文字の荒涼とした、痛ましいメッセージ ― 「SALE」。グッチの広告の脇に小さな文字で、シンプルに、「現在、追加値下げ実施中。」

「ラグジュアリー・フィーバー」(1999)では、コーネル大学(ornell University)の経済学者のロバート・H.フランクは、「[上位所得者]の上昇の一途をたどる消費はウィルスであり、程度の差こそあれ、我々とりこにする高級品に対する熱狂を生むもの」であると唱えた。高級時計やスポーツカーを追い求めても、結局、我々が幸福になることはない、と彼は言っている。

おそらくこれが、商品の市場規模が落ちれば落ちるほど、マーケティング担当者たちが、より温かみがあり、愉快な(そして、巧みに操作された)メッセージを顧客に送っている理由であろう。ベストバイ(Best Buy)の「さらに幸福に」と題打った、最新広告キャンペーンでは、実際、高齢者や盲人を助ける従業員がフィーチャーされている。

多分、デビアスのような高級企業にの忠告に従い、「本当に重要なことを再確認する」時なのだろう。そうすれば、現在の不況は、高級品への熱狂(Luxury Fever)を打破する良いチャンスであると理解できるかもしれない。





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