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2016/08/13


スイス時計業界の苦境、2016年上半期の輸出はは10.6%の落ち込み

スイス時計と言えばロレックスやオメガ、フランク・ミュラーなどの数々の高級ブランドの代名詞であるが、スイスの時計業界は現在、困難な状況に直面している。

スイス時計協会FHよれば、2016年上半期の輸出額は前年同期間と比べて10.6%の減少の95億スイスフランとなった。世界的に輸出が伸び悩む中で、スイス時計の最大の輸出先である香港市場が決定的な影響をもたらし、2016年上半期の輸出額は前年比で26.7%も落ち込んだ。

同協会は、スイスフラン高や、テロの不安、観光客の減少が、スイス時計の需要に不利に働いたと述べている。また、有識者によれば、中国政府による反汚職キャンペーンや、人民元安、金価格の高騰、中国人の高級品から経験への趣向の変化なども、特に高価格帯製品に影響を及ぼしているとも言われている。

スイス時計の輸出額の推移

スイス時計輸出額の前年との比較(トップ4市場)

輸出額全体のうち腕時計は時計輸出全体の94%を占めたが、こちらも2015年上半期と比較して10.7%の減少となった。輸出本数では-11.9%の減少となり、6か月の間にスイスから出荷された腕時計は、前年よりおよそ160万本少ない1200万本であった。

国ごとのスイス時計の輸出量の推移

日本はスイス時計の第4番目の輸出先であるが、2016年上半期はトップ4市場の中では唯一輸出額が伸び、中国の輸入額を上回った。しかし全体の落ち込みに歯止めをかけるほどの影響力は見られなかった。

国ごとのスイス時計の輸出額の推移

2016年のスイス時計輸出全体の年間予測は大幅に悪化しており、下半期には状況が若干改善される可能性があるものの、年間を通しての成長率は現在の低迷状態とほぼ変わらないことが予想されていると協会は述べている。

近年でスイス時計業界が最も大きな落ち込みを見せたのは、1970年代に日本メーカーのより正確でより安いクォーツ時計が市場を席巻し、スイスの機械時計を市場から追いやった時代であった。日本メーカーに対抗をするために、よりデザイン性を押し出した低価格のプラスチック製ウォッチで成功をおさめたはスウォッチであり、同ブランドは若い消費者を中心に一躍多くの顧客を獲得した。一方で価格では勝負をせずに、高額で本物志向の機械時計を押し出したのがロレックスやパテックフィリップ、ブライトリングなどの現在誰もが知っている高級時計ブランドであり、スイス時計業界再建の大きな原動力となった。スイス時計業界は、時間を確認するだけではない新たな腕時計のあり方を早くから確立し消費者にアピールをすることに成功を収めてきた。2015年でのデータでは、いわゆる高級時計と言われる3,000スイスフラン(約30万円)以上の腕時計の輸出額は腕時計全体の輸出額の66.3%を占めた。

価格帯ごとのスイス腕時計の輸出額 (2015)

これまで順調な伸びを見せてきた高価格帯の腕時計であるが、2014年をピークに落ち込みを見せ、2016年上半期は前年同時期比で11.9%の下落を見せた。また、ユニット数(本数)では、-9.1%の減少であった。製品の材料別にみると、貴金属製品は高価格帯腕時計の成長に合わせて2014年まで大きな成長を見せたが、2016年上半期には16.1%落ち込み、輸出額減少の半分以上がこのカテゴリに由来するものであった。

価格帯ごとのスイス腕時計の輸出額の推移


価格帯による変化 (2015年上半期 vs 2016年上半期)


材料ごとのスイス腕時計輸出額の推移

2014年を境に高価格帯の腕時計は大きな落ち込みを見せているが、スイス時計の大きな強みは依然、消費者が憧れを持つような高級なブランドイメージである。2010年代初めのスイス時計ブームは過ぎてしまったが、有識者によれば、このようなブランドイメージが今後の回復の鍵であると見込まれている。現在の輸出額の落ち込み原因の多くは、スイスフラン高や金価格の上昇など、スイス時計企業がコントロールできないものであり、メーカー各社は嵐が過ぎるのを待つしかないとも見られている。

しかし一方で、スイス時計業界には1970年代以来の新たな脅威も近づいているのかもしれない。Bloombergによれば、今年2月にApple Watchに代表されるウェアラブルウォッチの世界全体の出荷数が、スイス腕時計の出荷数を超えたと報告された。新しい世代の消費者が増えて、時間は時計ではなく携帯電話で確認をするものという新たなトレンドは今後加速をしていくかもしれない。

この動きにスイス時計メーカーはあまり焦りを感じている様子はない。昨年1500ドルのスマートウォッチをリリースしたタグ・ホイヤーを除いては、スイスウォッチメーカーはこの脅威に特に大きな対応は見せていない。昨年、デロイトが行った調査によれば、スマートウォッチに脅威を感じているスイスウォッチメーカーの幹部はわずか25%であったという。

1970年代のクォーツ危機の時のようにスイスの時計業界の大きく変わるのか、それとも今まで通りのかたちで不況の嵐が過ぎるのを待つのか、もう少し業界の動向を見守る必要がありそうである。

<了>






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